工場の自社ブランドの立ち上げ

知人を通じて連絡がきた依頼で、縫製工場を持つ会社さんのファクトリーブランドの立ち上げの相談でした。

数十年、縫製工場としてアパレルの縫製を請け負いながら、最近ではOEM生産もする縫製工場で、売上的にはここ数年横ばいですが、設備投資や社員教育にも熱心でソフトとハードの両面で優良な工場さんです。

しかし、今後の展開を考えた場合の閉塞感から具体的に次のビジョンが不透明でその解決のため連絡をくれたようです。

自社ブランドの立ち上げというのは、雰囲気同じように考えてしまいがちですがアパレル・ショップ・工場・他業種からの参入などそれぞれやり方が違います。まったく違います。

ファクトリーブランドの立ち上げの場合、その歴史とその中で培った「モノ」=設備・得意な素材・場所、「ヒト」=経験・人数などからスタート地点をどこにするか考えます。

その上で何を目指すかを決めていきます。ここが一番時間をかけていい部分です。

<目指すもの(商品)×世の中の流れ=最大値で、同時に最低数十年続けられるもの。>

今後の無駄な時間やコストを避けるためにも非常に重要です。特に設備は費用のかかるものですから間違った方向だとかえって負担になるだけです。

 

今、日本の工場さんは主に2つの選択肢で悩んでいます。

それは縫製(または編み)だけでは今後生き残れない可能性が高く、次の5年10年先だけを考えてみても新たな売上の柱を見つけなければならないこと。

50年、100年と続く会社にするためには「今」が非常に重要な局面になっていること。

もちろん縫製や編みの技術をより高めるのは必要ですがそれは今に始まったことではなく、昔からやってきたことで、それだけでは他との差別化は難しいと言えます。

環境的には国内の生産場所は毎年減る一方なので、それで仕事が集まることもありますが、それは企業として成長しているわけではないので、海外も競争相手となれば一時的なものです。

そこで次のビジョンを描かなければなりません。

話はもどりますが

1はOEM生産をメインに描く成長。

2は自社ブランドを立ち上げ描く成長。

主にこの2つのどちらに進むのか?それが問題です。

結論から言ってしまうと、1は90%以上の確率で消耗して終わります。

90%以上に勝ち目がないというわけではなく、国内では継続できる利益を上げるには10%以下のパイしかないのです。

そして、そこに入るためには十分な生産設備やスキルの高い社員、それに素材調達力を含めたデザイン企画力が必要になります。

高価な生産設備や人件費の高騰をクリアしつつ、新しい素材も調達できる能力も持ちつつ、売れるデザインのサンプルを相手に見せられ、コストも十分安い、これが出来ればOEM生産だけで生きていけるでしょう。

でも、これができる会社が日本に何社あるでしょうか?

純粋に0から自社でデザインを生み出すアパレルブランドは数えられるほどで、その他は相手がデザインも込みで持ってきてくれることを一番歓迎しています。

ほとんどがリスクを持ちたくなく、簡単で早く安い、それを相手に期待しているのが現状です。

OEM生産の発注元はアパレルやチェーン店、そしてそれらの生産を請け負う商社なども該当します。間に会社が入ればそのマージンもあり、コストを下げてという要求も強くなりますし、年々販売価格も下がっている状況では工場側の利益も薄くなる一方です。

論理的に考えればこれからこんなところに会社を導く経営者はいないでしょう。

たしかにOEM生産で業績を上げている会社はいくつか存在しますが、ただ、それは今までの堅実な積み重ねと拡大してきた時代性があったからこその現在で、これから始めようとしても可能性は極めてリスキーで低いと感じるのが実感です。

そこで2を選ぶのが普通です。

実際ヨーロッパではファクトリーブランドから生まれたものが多いのですが、これは自国だけでなく他国へも売るという、元々歴史的に彼らが持っている目線のためです。

自分のところにある技術や設備から何が出来るか、うちはこんなことが他より優れている、これをやっている所は他には無いな、とか試行錯誤して商品を作りだしますが、それは何より自分の仕事に誇りを持っているから、その仕事を他人の名前で売るということは有り得ないわけです。

工場発の自社ブランドを作る場合、特にこの意識が大切です。

よく混同して同じように動きがちですが、アパレルブランドやショップオリジナルブランドとはブランディングの組み立て方が違うので、注意してください。